تسجيل الدخولエステルは辺境の開拓村出身の15歳の娘。燃え盛る炎のような鮮烈な赤い髪と、清らかな|水面《みなも》のように透き通った蒼い瞳を持つ、神秘的な美少女だ。
だが、口を開けばその印象はガラリと変わる。彼女は幼少の頃から棒切れを剣にして振り回し、村の同年代の男の子たちを子分に従えるようなお転婆な娘だった。そして年頃の娘となった今でも、そのお転婆ぶりは変わらず。唯の棒切は、いつしか木剣に変わり……今ではしっかりと手入された実剣になった。振り回すだけの剣術とも呼べなかったものも、日々欠かさない稽古によって洗練された剣技へと昇華されている。 そんな彼女を女性として見る者は、一部の例外を除いては居なかったが、相変わらずのガキ大将気質に彼女を親分として慕う|男《こぶん》は多かった。 そして彼女がオシャレや恋愛よりも剣の稽古に精を出すようになったのは、間違いなく父親の影響だろう。 かつて、名うての騎士だったと言うエステルの父は、どういうわけか早々に引退してしまい、妻とともに辺境の田舎へと引きこもってしまった。騎士を引退したとはいえ、まだ若く肉体的にも全盛期だった彼の剣の腕は些かの衰えもなく、魔物が跋扈する辺境の地では村人たちに大いに頼りにされた。成り行き、自警団の団長に収まるのにそれ程時間はかからなかった。 そうやって村人たちの信頼と尊敬の眼差しを受けるようになった彼に、幼いエステルが憧れを抱くのは当然の事だったのかも知れない。剣に興味を示した幼い娘に、父は喜んで自ら剣を取って稽古を付けるようになったのである。 それから僅か数年……エステルが十二を数える頃には、彼をして『もはや自分を超えた』と言わしめる程の腕前となるのだった。 以来、父から剣を教わる事もなくなったが、彼女は日々の稽古を止めることはなく只管に剣の腕を磨き続けた。さらにその頃からは村の自警団にも所属し、辺境の強力な魔物相手に実戦経験も積み重ねてきたのである。 そして、美少女天才剣士の噂は近隣の町村にまで届くようになった。その噂はやがて、彼女の村が属する辺境伯領の領主の耳にまで入る事になり、エステルに興味を示した領主は彼女を自分の屋敷に招き、噂を確かめようとするのであった…… ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「わぁ~……立派なお家だね~、お父さん!」 エルネア王国ニーデル辺境伯領の領都、ウィフニデアにある領主の屋敷までやって来たエステルと父。 「うむ。大きいな」 二人は領主邸の大きな格子状の門の前に並んで立ち、お上りさんの如く屋敷を見上げていた。その様子は実に似たもの父娘である。 父……ジスタルは、エステルのような大きな娘がいるとは思えないくらいに若々しく、見た目から実年齢を推し測ることは難しい。元騎士、現自警団団長というだけあって、鍛えられ引き締まった長身に精悍な顔立ち。赤に近い茶褐色の髪に鳶色の瞳……容姿の点ではエステルとはあまり似ていないが、ふとした表情や所作などはそっくりだ……と言われる。 「それで、お父さん……これからどうするの?」 「俺たちは辺境伯閣下に招かれた客人と言う事だからな。約束の時間も近いはずだし、多分迎えが……あぁ、来たみたいだ」 門扉の前に立つ二人の元に、門の向こう側の敷地内から使用人らしき人物が近づいてくるのが見えた。高位貴族に仕えるだけあり、キチンとした身なりで……雰囲気的に、使用人の中でも地位の高い人物であることが窺える。 「ジスタル様、エステル様……でいらっしゃいますね?」 「ああ、その通りだ。辺境伯閣下に取り次ぎ願いたい」 高位貴族家の使用人に対しても、臆することなくジスタルは応対する。長くの田舎暮らしと言う事もあり、先程は娘と同じようにお上りさんのようになっていたが……彼は元々王都の騎士団に所属していた。貴族と接する機会もそれなりにあったので、その対応も心得ている。 「はい。ご案内するように仰せ付かっております。こちらへどうぞ」 そう言って使用人は屋敷の中に二人を招き入れるのであった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 「よく来てくれた。騎士ジスタルよ」 「本日は辺境伯閣下にお招きいただき、まことに光栄の至りでございます」 「えっとえっと……ありがとうございます!」 使用人に案内され、向かった先の応接室で父娘を迎えたのは……がっしりとした体格の壮年の男性。短く刈り込んだ黒髪に、顔の輪郭を縁取るように髭を生やしている。歴戦の戦士のような覇気を纏う彼こそが、ニーデル辺境伯領主……デニス=ニーデルその人だ。 彼の歓迎の言葉に、ジスタルは礼儀正しく、エステルは戸惑いながらも元気よく挨拶をする。 「ははっ!そんな畏まらなくても良いぞ。俺とお前の仲だろう」 「……では、そうさせてもらおう。あと一つ訂正だ。俺はもう騎士ではないぞ」 「悪い、ついな。しかし、やはり惜しいとは思うぞ」 どうやらこの二人、昔からの知り合いらしい。身分によらず遠慮のないやり取りからすれば、随分と親しい間柄のようだ。 「自警団の団長なんてやってるくらいだ。腕は鈍ってないのだろう?」 「どうかな?専ら相手にするのは魔物だからな。人間相手とは勝手が違う」 「確かに戦い方は違うかも知れないがな。辺境の魔物を相手にする方が余程大変だろう?」 一般的に……魔物と呼ばれる存在は、人間にとって脅威である。戦いを生業にする者であっても、相見えれば命を落す危険は常にある。ましてや、魔境に程近い辺境の地の魔物ともなれば尚更だ。ジスタルは日頃からそのような魔物から村を守っいるのである。その事実だけで彼の実力の程が窺えるだろう。 しかし。 「それはそうかもしれんが……いや、ある意味では人間相手の方が厄介かもしれんぞ。……まぁ、それはともかく、何れにしても最近では俺の出番はめっきり減ったな。若い奴らが台頭してきたから」 と、エステルの方をチラ……と見ながら彼は言う。その視線につられてデニスも彼女に注目した。 エステルは二人が話している間、所在無げに応接室の中を観察していたが、デニスが見ているのに気付くと、にへら……と曖昧な笑みを浮かべた。 「ふむ……そちらの娘が噂の?」 「どんな噂が届いているのやら……まぁ、何となく想像はできるが。俺の娘だ」 「エドナ…との?」 「それはそうだろう。そうじゃ無かったら問題だ」 エドナ、と言うのはエステルの母親である。若くしてエステルを産んだと言う事もあるが、娘と並んでも姉妹にしか見えないくらいに若々しく、ジスタル以上に年齢不詳だ。見た目もエステルとよく似ている。 「あぁ、いや……それは見ればわかるんだがな。お前たちが結婚して子供までこさえた、というのが未だにピンと来なくてなぁ……」 「……そんなにおかしいか?」 「おかしくはないが、当時は想像してなかったからな。まぁ、それは良い。今日お前たちをここに招いたのは、噂の娘……お前と話をしたかったからだ」 「はい!何をお話すればよろしいでしょうか!?」 ようやく本題に入ったのを察してハキハキと答えるエステル。その様子に気を良くしたデニスは、相好を崩して続ける。 「まず聞きたいのは……お前さんは既に父よりも強い、と聞いたのだが。それは真か?」 その問いに、エステルは困ったように眉根を寄せて、父親の方を見る。ジスタルは苦笑しながら娘の代わりに答えた。 「事実だ。コイツが十二の頃には、もう俺の実力は超えていた」 「……そうかなぁ?」 今ひとつ納得いっていないかのような様子のエステル。しかしそれは、彼女にとってジスタルが憧れの存在であるが故のものである。実際のところ彼女の実力がジスタルを超えているというのは、父だけでなく村の誰もが認めているところだ。 「にわかには信じがたいな……。あの『剣聖』ジスタルを……実の娘と言えども、十代半ばの少女が超えるなどとは」 「その名はやめてくれ。……何だ、疑ってたのか?」 「噂話の段階ではな。だが、お前自身が認めているのであれば信じざるを得ないだろう。……なぁ、エステルよ」 「はい、なんでしょうか?」 「お前の実力……確かめさせてもらえぬか?」 「?」 デニスの言葉に、コテン……と首を傾げるエステル。少し考えてから彼女は答える。 「えと……誰かと戦うって事ですか?」 「ああ、そうだ。俺の部下と模擬戦をしてもらいたい」 デニスのその提案には、ジスタルが難色を示す。 「おいおい……」 「ん?ダメなのか?」 「ダメ……と言うか。こんな年端も行かない娘に負けたら、そいつのプライドが傷つくぞ?」 「ははは!!大丈夫だ!ウチの騎士たちはそんなヤワじゃないぞ。『剣聖』を超える者が相手とあれば、挙って手合わせを願うだろうよ。……まぁ、最初は疑念を抱くだろうが、実力を示せば小さい事に拘るような奴らではない」 辺境の地の守護を担うだけあって、ニーデル辺境伯領の騎士は精鋭揃いとの呼び声が高い。気性が荒く、自身の力に絶対の自信を持つ者たちだが、実力者には敬意を払う……とはデニスの弁。 「どうだ?やってくれないか?」 「はい!やります!」 「……まぁ、本人がやる気なら俺は構わんよ」 エステルは快諾し、ジスタルも今度は反対しなかった。 剣聖の娘エステル。辺境の村で変わらぬ日々を過ごしていた彼女は、この日を境に運命が変わることになる。 ここに、彼女の物語の幕が上がるのだった。後宮にて何者かの襲撃を受けたエステル。アランには『気にするな』と言われたが、流石の彼女も全く気にしないで忘れる……と言う事は無かった。「何だったんでしょうね……?アランさん、心当たりは無いんですか?」「どうだろうな?無い訳では無いが……それほど心配する必要は無いだろう」「……?」「とにかく。また襲撃されても面倒だからな。今日はこれくらいにしておくか。エステル、城門まで送ってやろう」そう言ってアランは案内を終えることを告げた。「今日はありがとうございました!アランさん!!」「いや、礼にはおよばない。俺も君を案内できて楽しかった。またいつでも来てくれ」「はい!!それじゃ、さようなら~!!」城門で二人は別れる。エステルは途中何度も振り返って大きく手を降っていた。アランは彼女の無邪気な様子に苦笑しながら、軽く手を振り返して見えなくなるまで見送るのだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「失礼します、陛下」エステルと別れ、執務室で溜まった書類仕事をするアラン。既に魔法は解除して、本来の姿に戻っている。今日もフレイがどっさりと持ってきた大量の書類に溜め息をつきながらも、黙々と作業を進めていた。そして、何度目かの溜め息をつこうとしたその時、何者か執務室の扉がノックされる。アランが入室の許可を出すと、茶髪に茶色の瞳の一見して目立った特徴もない男が部屋に入ってきた。アランは彼を見て、からかうような調子で言った。「どうだった?彼女は」「どうだった……じゃないですよ!!危うく死にかけましたよ!?」「よくあの一撃から逃げおおせたものだ」「……他人事みたいに言わないでください。本当にギリギリでしたよ。あと一瞬撤退が遅れていたら……今頃、森の木と一緒に真っ二でしたよ、俺は……」それを想像して青ざめる男。「突然あんな命令されるんですから……びっくりしましたじゃないですか。で、指令通り襲ってみれば、あんな化け物相手だったなんて……」そう。先程の後宮での襲撃は、彼の手によるものであり、それを指示したのはアランなのであった。廊下で使用人とすれ違ったとき、エステルに気付かれないように指令の手紙をこっそり渡していたのだ。その目的とは、果たして……「お陰で彼女の実力が良く分かった。……いや、まだあんなものではないと思うが、一端は知ることができたな。感
無人の後宮を散策するエステルたち。しっかりと手入れされ、美しい花々が咲き誇る庭園を彼女は心から楽しんでる。もしこの場にクレイがいたのならば「お前に花を愛でる感性があったなんて……」などど、失礼な事を言うに違いない。「広くて良いですね〜。キレイな花を見ながら鍛錬するのも楽しそう!」……やはりエステルはエステルだった。きっとクレイも納得するはず。「ふ……本当に剣術が好きなんだな、エステルは」「はい!……でも、王都に来てから中々鍛錬が出来なくて。鈍ってないないか心配です」シモン村では毎日剣術の鍛練を欠かさなかったエステル。だが、ここ数日はそれを果たすことができずに焦りの気持ちが生じてるのだ。「一度、宿の前でやろうとしたんですけど、クレイに止められたんです」「あ〜……確かに奇異の目は向けられそうではあるな」因みに彼女は今、帯剣している。本来の得意武器である大剣ではなく、小振なショートソードではあるが。本来は、騎士や衛兵でも無い限り王城内での武装は特別な許可が必要なのだが、アランと一緒にいるため見咎めるものは居なかったのである。「騎士になれば騎士団の訓練場で好きなだけ剣をふれるから、それまでは我慢することだ」「う〜」我慢しろと言われ、ぷく〜……と頬を膨らませるエステル。その様子が可笑しくて、アランは笑いを抑えることができない。「ははは!そんなにむくれるな。もう、あと数日だろう?」「むう……まぁ、しょうがないか。でも騎士になったら取り戻さないと!!」もはや鍛練中毒とすら言えそうな彼女であった。そうやって……実態はともかく、傍から見ればまるで恋人同士のように仲睦まじく語らいながら二人は庭園を散策する。そして、次は宮殿の中も見学しようか……と、更に進もうとした時だった。「……アランさん。誰かいます」突然、普段の脳天気とも言えるくらいに快活なエステルの雰囲気が一変する。アランは、その変わりように驚きをあらわにするが……直ぐに自身も不穏な空気を察知した。「これは……殺気?」「はい、誰かが私達を狙ってます。…………っ!!」何かが自分たちに向かって飛来するのを敏感に察知したエステルが、腰に下げていた剣を抜き放つ!!キィンッ!!キキィンッッ!!目にも止まらぬ速度で振るわれた彼女の剣は、猛スピードで飛来した何本もの矢を尽く打ち払った!!ヒュ
アランに案内されて王城見学をするエステル。中央庭園を後にした二人は、更に城の奥に進むが……「さて、ここからは一般人は入ることが出来ない場所だな」「え?入っていいんですか?」「ああ、大丈夫だ」アランは特に気にした風もなく、庭園から奥へと続く廊下を目指して歩いて行く。当然ながら行く先には見張りの衛兵が、一般人がこれ以上入ってこないように監視の目を光らせていた。しかし、アランは歩みを止めず堂々としたものだ。二人が近付くと、衛兵は静止させるべく動こうとしたが……アランの顔を確認すると再び定位置に戻って不動の体勢になった。「ご苦労」「「はっ!!」」アランが軽く手を上げて労いの言葉をかけると衛兵たちは、さっ……と敬礼する。「こんにちは〜!!」エステルが元気な挨拶をすると、少し驚いた表情になったが、無言を貫いてそのままの姿勢で二人が奥へと進むのを見届けるのだった。「えっと……アランさんって、もしかして偉い人なんですか?」「ん…………まぁ、気にするな」問われて彼は少し口籠って答えを濁す。素直なエステルは、「気にするな」と言われて、その言葉通りに気にしないことにした。エステル・ブレーンの思考回路は至ってシンプルなのである。さて、先程までは多くの一般人、観光客が周りにいたが、いま歩いている城内の廊下は閑散としたものだ。ときおり城の使用人らしき人とすれ違うが、誰も彼もアランを見ると邪魔ならないように脇に避けて、頭を下げて二人が通り過ぎるまでその場で待機するのだった。そんな光景を見てもエステルはもう気にしないで、キョロキョロと物珍しそうに城内の調度品などを眺めながら歩く。……素直すぎる娘である。そうやって暫く廊下を歩いていると、やがて二人は城の裏手から外に出て、先程の庭園と比べて倍ほどに広い美しい庭園にやって来た。「うわぁ……さっきよりも凄く広い!!お城の中にこんなに広い場所があるんですね!ここは何なのですか?」「ここは後宮だ。今は使われていないから、誰もいないが……手入れはされているから中々見応えがあるだろう?」アランが案内してきたのは、王城の最も奥まった場所にある後宮であった。先程の中央庭園とは異なる色鮮やかな花々が咲き誇り、中央部分には清らかな水を称える大きな池が。その周囲には後宮に住まう女性たちが語らうであろう|四阿《ガゼボ》が設けられ
「そう言えば、アランさんはお城に詳しいんですか?」今更な質問である。そうでなければ案内するなどと言わないだろう。だが、アランはそんなエステルのちょっと抜けた質問に、呆れることもなく答える。「まぁ、それなりにな。一般人よりは知ってると思うぞ」「へぇ~……じゃあ、王様に会ったこともあるんですか?」その何気ないエステルの質問に、アランはピクッ……となって、一瞬だけ反応が遅れる。「……いや、国王陛下には会ったことは無いな」「そっか~……王様って、強いんでしょう?私、お会いしたいんですよね~。出来れば手合わせなんかも!」「ははは!!国王陛下と手合わせか!!そいつはいいな……!!」彼女の無邪気な発言に、アランは可笑しそうに笑うが、それは馬鹿にしたような雰囲気ではなく、どこか嬉しそうなものだった。エステルもその雰囲気を察して、何だか自分も嬉しくなる。「えへへ~……でも、流石に難しいですよね」流石のエステルも、一国の王と手合わせすることが難しいのは理解しているようだ。……意外なことに。「さあ、どうだろうな……案外、願いが叶うかもしれないぞ?」「ホントですか!?」「はは、約束は出来ないがな。まぁ、勘というやつだ。……ああ、ほら見てみろ。中央庭園だ。ここまでは一般人も入ることが出来るな」まずアランが案内したのは、王城入り口から真っ直ぐ進んで突き当りにある、城内中央部の屋内庭園だった。彼が今説明した通り、ここまでは一般人も自由に立ち入ることができた。もともとは玄関ホールから先は立入禁止だったのだが、現国王になってから市民に開放されたのである。「うわぁ……キレイな花がたくさん!!」女子力皆無のエステルではあるが、キレイな花は好きである。 「それに美味しそう!!」……いや、やはり花より団子のようであった。「美味しそう……?」庭園の花々を見て「美味しそう」などと評したエステルに彼は訝しげな顔となる。「ほら、あれってプリュケスの実じゃないですか!!甘酸っぱくて美味しんですよ~!私、大好きなんです!」彼女が指差す先を見ると、なるほど……確かに幾つもの赤い実がなっている木があった。「ふむ……この実は食べられるのか?」二人はその木に近づいて、丁度剪定作業を行っていた庭師にアランが訪ねた。話しかけられた年配の庭師は振り向いてアランの顔を見ると……「
騎士団登用試験まで、あと数日となったある日。ここ数日、エステルとクレイは王都を散策して土地勘を養っていた。そして、本日は……「……本当に大丈夫か?」「大丈夫だって!!私は一度通った道は忘れないよ!」「……お前、一度行った場所なんか興味無いだろ」「シモンの民たる者、常に開拓者の精神を持たないと!」「言ってる事が矛盾してるのに気付いてくれ……」二人が何を話しているかといえば……クレイが今日は図書館に行ってみたい、と最初提案したのだが、全く興味がわかないエステルが「だったらそれぞれ単独行動にしよう!」……言い出したのだ。何かと小姑のようにうるさいクレイの目から離れて伸び伸びしたい……と思ったわけではない。……はず。「迷子になったら適当に彷徨くんじゃなくて、巡回の兵士とかに聞くんだぞ。宿の名前は分かってるな?」まるで小さな子供に言い聞かせる母親のように何度も確認するクレイ。「も〜う、分かってるって!!うるさいなぁ〜」……やはり、彼女も少しうるさいと思っていたようだった。 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆「ん〜……のびのび〜!ふ〜ふふんふん〜ふ〜……」クレイと別れたエステルは、賑わいを見せる街路をひとり歩いて行く。調子外れな鼻歌すら飛び出すほど開放感を感じているようだ。……散々クレイにおんぶに抱っこだった癖に、随分現金なものである。「さぁ〜て、どこに行こうかな〜。まだ行ってないのは……あっちの方かな?」早速、開拓者精神とやらを発揮することにしたらしい。複雑に入り組んだ街の街路を迷いなく進んでいくエステル。完全に直感で道を選んでいるが、エステル・シックスセンスがポンコツであることを彼女は自覚していない。果たしてどうなる事か……「あれ〜?随分人が少なくなったね……」暫く街を適当に歩いてたエステルだったが、あれほど賑やかだった喧騒がいつのまにか遠ざかっていた。周囲の建物も一つ一つが大きく、閑静な住宅街といった雰囲気だ。「何か、デニス様のお屋敷みたいなのがたくさんある……あんまり面白そうな場所じゃないかな?……ん?」キョロキョロと辺りを見回しながら歩いていたエステルだったが……ふと、彼女は立ち止まってある一点を見つめた。どうやら何か彼女の興味を惹くものがあったようだ。「あれってもしかして……お城かな?」エルネ城は宿泊している宿
「陛下、何をご覧になられてるのです?」 王の執務室を訪れた宰相フレイは、王が何らかの書類をじっくり読んでいるのを見て問いかけた。 彼の主である若き王は、その資質、能力は申し分ないものの……些か不真面目なところがあり、普段の書類仕事は片手間でやることが多い。それでも能力があるので仕事はきっちりとこなすのだが。 だから、王がこのように集中しているというのはフレイから見れば珍しい光景だった。 「ん?……あぁ、ほら、昨日会った騎士志願の若者たちの話はしただろう?登用試験の出願書の写しを持ってこさせたんだ」 「あぁ、なるほど……それで、どのような者たちなのです?」 「二人とも、ニーデル辺境伯の推薦だな。あの地は強力な魔物が多いから……優れた戦士を多数輩出する土地柄だ。あの実力も、そう思えば納得できる」 「ニーデル辺境伯……デニス様ですか。あの御方の推薦ならば信頼できますね」 「ああ。だが、それだけじゃない」 「……?」 「少年の方は、至って普通の素性なんだがな……これを見てみろ」 そう言って王は、先程までじっくり見ていた資料をフレイに差し出す。彼は資料を受け取ると目を通し始めた。 「……名前はエステル。15歳、女性。出身はニーデル辺境伯領シモン村。シモン村自警団所属で、団の中では一番の実力者……ほぅ、少女の身で大したものだ。ですが陛下、他に特に変わったところは無さそうですが……」 「家族構成を見てみろ」 「家族構成?……父と母、妹と弟の五人家族。父の名はジスタル。母の名はエドナ…………えっ!?」 エステルの両親の名を確認したフレイは、目を見開いて驚愕の声を上げた。 「どうだ?面白かろう?」 「いや、面白かろう……じゃないですよ。よろしいのですか?」 「何が?」 「ジスタルとエドナと言えば、あの事件の……」 と、フレイは口籠る。どうやら彼はエステルの両親の事を知っているらしい。 彼らが王都にいたのはまだエステルが生まれる前……15年以上も前の事。国の重鎮……それも、まだ年若くもある王やフレイがエステルの両親を知っていると言うのは、いかなる理由によるものなのか。 「問題ないだろ。あの事件はとうに解決し、もはや過去のものだ。ましてや彼らの娘には関係ないことだろう」 「それはそうでしょうが…………陛下?何か企んでますよね?」 昨日の様







